2014年08月25日

都市化が生物多様性に及ぼす影響 〜 都市化度×パッチ面積×分類群の交互作用 〜

 この度はポスター賞をいただき,大変うれしく思っています.

 今回の研究は,「都市緑地を対象に,周辺の開発の程度(都市化度)と緑地の面積(パッチ面積)が生物多様性(鳥,昆虫,植物)に及ぼす影響を明らかにすることを目的としています.」・・・と言うのも,そこには3つの背景があります.
 
 第一に,生態学の分野において,これまで都市をフィールドとした研究が少ないため,未解明な点が多いこと.

 第二に,自然体験の喪失が懸念される中で,多くの人にとって自然と触れ合える身近な場である都市緑地の再評価が求められており,その基礎資料(どのような生き物が,どこに,どの程度いるのか?)が必要であること.
 
 第三に,都市緑地は人間活動の影響を大きく受ける一方で,都市の再整備を通じ,人間によって新たに創出される機会もあるため,生物多様性にとってどのような緑地(規模,質,配置)が好適なのかを知り,都市の緑地計画につなげていくこと.

 そのため本研究の最終ゴールは,幅広い都市化度を有する範囲(例:東京都心〜多摩地域)において,緑地の規模や質(植生構造),配置(周辺環境や緑地の連結性)の違いが,生物多様性にどのように影響するかを明らかにするとともに,地域の実情に合わせた生物多様性保全に効果的な緑地保全・創出手法を具体的に提案することです.

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図1. 緑地で見られる生き物たち(時計回りに,モズ,カワセミ,オシドリ,ウグイス)

 調査地は,東京都心(23区)・郊外(東京市部)・自然地域(多摩川周辺以西)を対象に,大規模公園(10ha以上)9箇所,中規模公園(2-10ha)21箇所,小規模公園(0.1-2ha)30箇所の計60箇所を選定しました.

 野外調査は,2013年の秋に開始し,その後,冬・春・夏の計4時期について実施しています.鳥類と飛翔性昆虫類(チョウ類・トンボ類・バッタ類)の調査にはラインセンサス法を,地表徘徊性昆虫類(オサムシ類・シデムシ類)の調査にはピットフォールトラップを用いました.あわせて,調査ルートやトラップ設置場所周辺にコドラート(10m×10m)を設定し,対象地の植生構造を記録しています.

 これらのうち,ポスター発表では2013年秋の結果をご紹介しました.都市化による種数の低下は大規模緑地ほど大きい一方で,小規模緑地は面積効果によって都市化度によらず種数が少ないことがわかりました.またそれらの影響の程度は,分類群によって異なっていました.すなわち,移動能力の高い鳥類や飛翔性昆虫類では,中・小規模の緑地では都市化の影響が見られなかったのに対し,地表徘徊性昆虫類では,都市化による種数の減少傾向が見られました.また植物では,植栽の影響を受け,他の分類群とは異なるパターンを示すことがわかりました.

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図2. 発表ポスター

 このことから,少なくとも2つのことがわかりました.まず,単一の分類群に着目した調査を行っても,都市の生物多様性のパターンはわからないということ(つまり,今後,複数分類群を対象とした環境指標種や簡便な調査法を探す必要がある).次に,ある緑地の生物多様性はその場所の面積と周辺環境の両方の影響を受けているため,個々の緑地や地域の実情にあわせた環境目標や緑地整備手法を選択する必要があるということ(例えば,都会の緑地に田舎の生物種を呼びよせることは困難であるかもしれないが,身近な生き物を観察する場としてとらえれば都会の緑地の意義づけや整備方法が決まる).

 今後,日本の都市では,人口減少と都市の縮退・再編に伴い,野生生物の生息場所としての都市景観も大きく変化すると予想されます.本研究をさらに発展させることで,地域の実情や政策的課題(環境目標など)に応じた緑地の整備や再配置などの技術的支援,都市の生物多様性のモニタリング手法の提案などにつなげていきたいと考えています.



上野裕介(うえのゆうすけ)
1977年生まれ.福岡県宗像市出身.現在,国土交通省国土技術政策総合研究所 任期付き研究官.北海道大学大学院水産科学研究科 博士後期課程 単位修得後退学(水産科学博士).研究テーマは,国土管理や自然環境保全を目的とした生物多様性評価手法の開発と政策への反映.趣味・興味・関心のあることは,2人の子供(3歳,0歳)と遊ぶこと.
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2014年08月12日

石川県における獣害の被害実態解析と予測

 日本景観生態学会第24回金沢大会におきましてポスター賞をいただきました。大学や行政、地域住民など大変多くの方々のご協力のもと、今回の御評価をいただけたものと感じております。

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写真1 ポスター

 さて、本研究では石川県を調査地としてイノシシの被害実態の解析と被害発生の予想を地理空間解析と遺伝子解析によって行いました。石川県では、イノシシの個体数及び農作物被害が増加しており、それに伴い分布領域も拡大し、H26年現在では石川県全土で生息が確認されています。
 
 被害は人とイノシシの生息域が重なる中山間地域を中心に発生しており、GLM解析による被害発生環境の抽出においても、『標高』、『積雪深』、『森林面積』が選択され、中山間地域が示唆された結果になりました。

 また、同じ中山間地域でも、加賀地方(石川県南部)と能登地方(石川県北部)で形態の違いが見られました。加賀地方では、大規模な農業地帯が連なり、能登地方では小規模な農業地帯が山間に散在しています。前者は、集落間の連携がとりやすく防除面積も小さくて済みますが、後者は集落間の連携が取りづらく、四方からのイノシシの進入に備えなくてはならないため、防除面積が大きくなり、経済的負担も大きくなるものと考えられます。
 
 MAXENTモデルによる被害発生地の予測では、加賀地方では、各市町の山間部林縁付近で高いリスクの地域が見られ、能登地方では比較的平野部が少なく、中山間地域が多いため、どこにおいてもリスクが発生すると予想されました。

 次に、遺伝子解析では、石川県内のイノシシの遺伝的集団が2集団いることがわかり、金沢付近で富山県側と福井県側の侵入個体がせめぎ合っているものと考えられました。最近新たに侵入してきた一部地域(加賀北部から加賀南部)の個体群については、HWE検定より近親交配をしている可能性が考えられました。こうした、遺伝情報(ミクロ)と地理情報(マクロ)を組み合わせ(Landscape Genetics)、可視化することで個体群動態の把握などに活かしていくことで、より重層的で多様な情報を提供していけるものと期待しております。

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写真2:推奨したい獣害対策における基本概念 

 今後の獣害対策には情報の収集と解析が重要な要素となるものと私は思います。既に対策方法は確立されているため、いかに情報を活かし細やかな対策をしていくかに対策の質が大きく関わるものと考えられます。

 究極的に言ってしまえば、山際の水田を放棄し、米の生産を比較的安全な平野部のみで行えば農作物被害はなくなります。それでも、田んぼを続けたい、残したいという人が多くいるのは、先祖から受け継いだ土地を守りたい、日本人のDNAに刻み込まれ、潜在的に感じている里山(故郷)を次の世代に残したいなどといったそれぞれの想いがあるためではないでしょうか。現在、観光資源として里山を押し出す風潮になってきているように感じますが、今、里山がどんな問題に直面し、どう対処するのかということを、まず先に考えていかなければ里山の荒廃はますます進むものと考えられます。先祖が残してくれた、美しい里山景観を守るために、我々は今まさに、真摯に『里山』と向き合わなければならない時期に来ているのだと思います。



永田 陽介(ながた ようすけ)
1989年生まれ。栃木県小山市出身。石川県立大学大学院 生物資源環境学研究科 環境科学専攻 修了。現在、石川県職員(林務)。研究テーマは、イノシシの被害実態の解析と個体群分析。現在、正式な業務として石川県の獣害に携わり貢献したいと思い、周囲へのアピールと獣害の勉強を続けています。(今回の受賞は大きな一歩と自信になりました。誠にありがとうございました。)
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