2013年09月02日

エゾシカによる植生改変とヤブサメの繁殖地選択―洞爺湖中島での事例―

 すごく違和感のある景色だ ― 学部3年生の6月、私は初めて洞爺湖中島を訪れました。北海道の6月と言えば新緑が深緑へと変わる鮮やかな季節…であるはずが、数種の植物だけで構成された異様な景色。

画像1.JPG
写真1 洞爺湖中島の風景(2011年5月)。シカの不嗜好性植物であるフッキソウが絨毯のように地表を覆っている。

 原因は高密度化したエゾシカによる過度な採食圧です。今や全国各地,世界各地で問題となっているシカ類による植生破壊ですが、当時まだ頭でした知らなかった私は、不嗜好性植物だけが生える単一的な緑にショックを受けました。

 調査ではヤブサメの繁殖期に当たる4〜7月、島内10地点において植生調査とICレコーダーを用いての自動録音による囀り回数の記録を行いました。音声の解析を進めるにつれ明らかとなったのは、ある3地点でオスが5月中旬を境に居なくなるという現象です。通常北海道ではオスが4月下旬に飛来し、遅れてやってくるメスと5月中旬までにつがいを形成します。つまりこの3地点では、つがい形成と繁殖が行われなかったことを示しており、実際に3地点でそれまで観察されていたオスが姿を消していました。一方の他地点では引き続き囀りが確認され、6月にはつがいでの餌運びといった繁殖行動が観察されました。そこで植生高、被度それぞれと囀り回数との相関関係を検証したところ、5月上旬はいずれも相関が無かったのに対し、6月ではどちらに対しても、特に植生被度について囀り回数との間に強い相関関係があることが判明しました(Spearman有意性検定より、p<0.01)。したがってヤブサメはシカの不嗜好性植物のみの環境でも、植生被度が季節推移により増加する場所を選択し、繁殖適地としていたのです。

画像2.bmp
写真2 すごく余談ですが、せっかくメスより先に飛来して頑張って囀っていた3地点のオス…無事にメスを獲得できたのでしょうか…なんだかほろりと来ます。頑張れ♂、来年は良い場所選ぶんだぞ!

 現在中島では、環境研究総合推進費(D-1103/研究代表者:吉田剛司)に基づき大規模なシカの個体数密度調整が実施されています。シカが低密度化するにつれて鳥類相はどのように回復していくのか。群集変化を追跡し、鳥類による生態系回復指標を明らかにすることを目指して今後も研究を進めていきます。

 末筆となりましたが、この度は素晴らしい賞をいただき心から感謝するとともに、会場で貴重なご意見を下さった方々や審査員の皆様に深く御礼申し上げます。また来年の大会で、研究に邁進する同志たちと再会できることを楽しみにしております。



上原 裕世 (うえはら ひろよ)
1989年生まれ。北海道札幌市出身。現在、酪農学園大学大学院 酪農学研究科 博士課程1年在学中。
研究テーマはシカの高密度化による植生改変が鳥類相へ与える影響について。趣味・興味・関心のあることは、遠出・釣り・イラスト入りの野帳や旅ノートをつけること・美味しいものを食べること・さらに温泉があれば幸せです。
posted by 管理者 at 13:39| Comment(0) | 景観生態学の現在