2013年07月19日

企業敷地の土地利用・生物調査ツールの性能評価

 この度はポスター賞を受賞することができ、大変嬉しく思います。

 今回発表した研究は、生息域が縮小・分断化された都市域生態系において重要な役割を果す可能性がある企業緑地に焦点をあてたものです。近年、生物多様性条約締約国会議(COP10)の開催等による関心の高まりや、企業活動の持続性を考える上で生物多様性が存在感を増してきたことにより、生物多様性の保全に積極的に取り組む企業の数は増加傾向にあります。そうした中で「企業と生物多様性イニシアティブ」(JBIB)では、私の前所属先である東北大学と協力して企業敷地の土地利用を改善し、地域の生物多様性に貢献していくための3つツールを開発しました。1つ目は、「いきもの共生事業所レジスタードマーク推進ガイドライン」と呼ばれ、企業緑地において生物多様性に配慮した土地利用や緑地作りの意義やその指針について解説しています。2つ目は、「土地利用通信簿レジスタードマーク」と呼ばれ、生態学的な知見に基づく緑地そのものの評価と、取り組み内容の評価が統合された評価ツールになっており、0〜100点で評価します。

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写真1 土地利用通信簿レジスタードマーク(左)と生物モニタリングシート(右)

 詳しい採点基準等については、いきもの共生事業所レジスタードマーク推進Web(http://www.blunc.org)にお問合せ下さい。3つ目の生物モニタリングシートは、どのような生物が緑地を利用しているのか、専門知識がなくとも社員自ら生物調査が実施できるようデザインされたツールです。具体的には、サイズや色などの形質や指標する環境が近い生物種を「種群」に分け、その種群の在不在を記録するように作られています。種レベルの把握はできなくとも、生物の利用環境として指標となる生物の組成が把握することが狙いです。これらのツールは生態学の知見をベースに作られているものの、@土地利用通信簿で高得点の緑地は実際に生物多様性が高いのか、Aモニタリングシートで得られた調査データはどの程度の質・信頼性を持つのか、という2点は別途、検証評価する必要がありました。

 そこで今回、業種の異なる5社に協力してもらい、全国8事業所において生物調査を実施しました。調査地は、1つの事業所あたり3つの調査地点(企業緑地2地点、事業所付近の公園・神社などの緑地1地点)を設定しました。これら調査地点にて、専門知識のない事業所の従業員によるモニタリングシートを使った調査と、生物調査会社の専門家による調査を同じ日・同じ時間帯に実施しました。その結果、通信簿点数と生物多様性指数、また従業員調査と生物調査会社による調査の生物多様性指数の間にはそれぞれ強い相関関係があることなどが明らかとなり、企業所有地において地域の生物多様性に貢献する土地利用を推進するツールとしての妥当性が確認されました。このような結果が得られたことは当然嬉しいことでしたが、それ以上に嬉しかったのは、協力していただいた2つの事業所において、今回の調査をきっかけに生物多様性のための環境づくりの取り組みが始まったことです。今回の調査でも周辺の公園や神社等よりも多くの種数が記録された事業所も見られたように、企業緑地の地域の生物多様性への貢献ポテンシャルは高いと考えています。

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写真2 企業敷地内とは思えない豊かな緑地

 今回の研究が、さらなる研究者と企業の連携や、より多くの企業の取り組みの後押しとなれば幸いです。



岩渕翼 (いわぶちつばさ)
1977年生まれ。宮城県仙台市出身。現在,東洋大学生命科学部助教。
研究テーマは淡水生態学、生物多様性評価.趣味・興味・関心のあることは1歳の息子と遊ぶこと、カメラ、音楽演奏。
posted by 管理者 at 17:18| Comment(0) | 景観生態学の現在