2012年01月30日

秋吉台の草原保全の現場から -地域密着型研究者の一事例として-

 「昔はもっと花が多かったんじゃがのう。」 草原の上で出会ったお年寄りのこんな声がきっかけで、秋吉台の草原での調査・研究と保全活動を始めて5年になります。
 山口県の中央部に位置する秋吉台は、石灰岩台地の上に面積約11.6km2の草原が広がり、地元住民による早春の山焼きでその景観が維持されています(写真1)。ネザサが優占する広大な草原には草原性の絶滅危惧植物が多く生育し、昔の姿を知らない私には「花が減った」という話はあまり実感をともないませんでした。ただ、今は採草利用がかなり減ってしまったとのこと。攪乱の強度が違っていれば生態系の応答も違ってきているはずと思い、もう一度草刈りを再開したらどうなるかという刈取り試験をしてみることにしました。すると、草を刈った最初の年、秋に茎を再生した草原性植物の開花数は、7月刈区が無処理区の約3倍となりました。その後毎年刈取り処理を続けていますが、優占種の交替や新しい種の移入・開花など変化は毎年確認できています。

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 写真1 秋吉台の草原景観

 その後、この調査結果を根拠に地元の学習施設で「秋吉台お花畑プロジェクト」という名前の行事ができました(写真2、3)。このプロジェクトは花を多くするだけではなく、刈った草を地元農家に提供して野菜を栽培してもらい、秋にはその野菜を参加者が受け取るという資源の循環をめざすものです。さらに、草刈りが負担になった地元農家を応援する意味合いもあり、観光にも寄与すること、環境学習の意味合いもあります。現在では、企業ボランティアによる活動や小学校の体験学習にも広がりをみせています。ただ、草刈りをするという行為そのものは、当初より自然愛好家から賛否両論があり、とりあえず現在は草刈り面積を限定することで了承を得ています。

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 写真2 秋吉台お花畑プロジェクト1(初夏の草刈り)

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 写真3 秋吉台お花畑プロジェクト2(秋の観察会)

 ところで、花が少なくなったという心配と並んで、「草原がせまくなった」というのもよく聞かれる話です。過去の地図や空中写真から過去の草原面積を算出してみると、明治32年ごろに比べて草原面積は4分の1程度になっています。減った分の草原はスギ・ヒノキの植林地や落葉広葉樹林へと変わっているようです。そこで、草原面積を維持するために、過疎・高齢化した地元が担う山焼きを応援することにしました。この「山焼き応援プロジェクト」では、実際に防火帯作り(火道切り)の手伝いをしたり、草を堆肥化して野菜を育て、それを作業時の昼食材料やお土産として提供しており、他地域から来るボランティアに好評を得ています(写真4)。

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 写真4 草を使って育てた野菜をボランティアに提供する

 さらに、「大ヤブになってしまった」草原を元に戻したいという声もあり、こちらは「草原の復元プロジェクト」として立ち上がりました。以前は農地として利用していた場所ではセイタカアワダチソウの群落が成立しています(写真5)。そこで、年2回の草刈りを実施していますが、刈り草を持ち出した場所では外来植物の衰退が確認されました。最近、外部研究者の協力により土壌の分析が可能となり、草を持ち出すことで土壌に蓄積された栄養分が取り除かれ、草原再生に寄与するのではないかという視点で研究できるようになりました。

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 写真5 草原内の耕作放棄地に成立したセイタカアワダチソウの群落

 このように、地元の想いを聞き、その疑問に答える形で調査・研究を始めた訳ですが、こちらが提示する調査結果が活動に関わる人の意欲を向上させ、そのニーズを受けてさらに調査が進むという相互作用的な関係が成り立っています。
 ただ、活動の主体は町からの委託費で運営する任意団体「秋吉台草原ふれあいプロジェクト」であり、構成員すべてがボランティアとして関わっています。今後の継続を考えた場合、団体としての機能向上も含め、行政や地元との関わり、外部との連携など課題は山積みです。また、活動を拡げていくためには、「草刈りは悪いこと」とする自然愛好家や秋吉台には無関心な地元の方との意思疎通を図るための“場づくり”も必須です。現在、各地で草原を含め里山環境の保全や再生への取り組みが行われていますが、他地域の事例を参考にし、現場でのやりとりを大切にしながら将来の像を描く手伝いができればこれ以上のことはありません。



プロフィール
太田陽子(おおた ようこ)
1969年徳島県生まれ。NPO法人 緑と水の連絡会議・受託研究員、美祢市立秋吉台科学博物館・学芸委員、秋吉台草原ふれあいプロジェクト副代表。博士(学術)。
第2回いきものにぎわい市民活動大賞(富士フイルム・グリーンファンド活動奨励賞)受賞(2011年10月)。
家族の転居や子育てなど、家庭環境に合わせてフィールドや研究テーマを変えているが、一貫して里山の自然環境保全とそれを支える社会の仕組みづくりに興味がある。定職なし、収入ほぼゼロという決してお手本にはならない存在であるが、地域密着型の研究者として実現できることを模索する毎日である。

posted by 管理者 at 14:26| Comment(0) | 景観生態学の現在