2011年09月28日

次の時代のランドスケープを創造する環境コンサルタント


・はじめに 
 アジア航測株式会社3年目の岩田悠希です。はじめに、東日本大震災で被災した皆様に、心よりお見舞いと哀悼の意を申し上げます。
 今回は、環境コンサルタントという仕事に関わった仕事体験談を紹介させていただきます。まだ、駆け出しの身で大変恐縮ですが、「フレッシュな目線」ということでお許しいただければ幸いです。


・私にとっての「環境コンサルタント」と2年間の貴重な経験 
 京都大学地球環境学舎・景観生態保全論研究室での修士論文研究を進める中、日本全国の里山を巡り、地域のランドスケープを左右するのは、経済の他に行政の政策決定が大きな役割を担っているということを強く感じました。日本の山を覆うスギ・ヒノキの植林や、ほ場整備された水田、エネルギー政策等、日本の里山里海の現在の姿は、戦後の国策の影響を強く受けているといえます。このような政策立案の際、専門家の立場から行政に適切な指針を示し、自然と人間社会の持続可能なつきあい方を実現させていく役割を担うのが、「環境コンサルタント」だと、私は考えています。
 そして、幸いなことに入社後、市、県、もしくは中央省庁など官公庁の業務を担当させて頂きました。「自然環境部門の施策検討の最先端の現場にいる」と体感しながら過ごせた2年間は大変充実していました。これまで担当させていただいた業務は、主に環境関連の計画の策定、自然環境の調査、技術検討に分けられます。社内の植物、動物、情報管理、計画策定に係わる高いスキルを有する技術者の先輩と業務ごとにチームを組んで対応する毎日は、日々勉強です。
 1年目。とにかく現場を知るということから、様々な業務を経験しました。河川敷の300mのライン上の植生調査や、サロベツ湿原の植生調査、都内の植生図作成のための群落組成調査、魚類調査の補助等も行いました。また、市の緑の基本計画や、統計ソフトを利用した生物生息予測値評価の検討業務、植生図作成業務等にも関わりました。

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 サロベツ湿原の植生調査現場

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 サロベツ湿原の代表種 エゾカンゾウ

 2年目の2010年。私にとってもっぱら「生物多様性」でした。URBIO(都市における生物多様性とデザイン)の国際会議をはじめ、生物多様性や生態系オフセットに関連する様々な学会やシンポジウムに参加し、生物多様性条約COP10フェアには、会社紹介のために2週間名古屋に滞在しました。一企業として生物多様性をビジネスにすることの難しさにもぶつかりました。「環境を空や陸から測る」会社として、生物多様性という概念を、地形を含めた生態系そのものだと捉え、営業資料も作成しています。主流化に向けたビジネスにつなげるため、現在も日々頭を悩ませています。

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 生物多様性COP10フェア 展示の様子

・「環境コンサルタント」の醍醐味・課題とは 
 様々な場所に行くことができるというのも環境コンサルタントの一つの醍醐味でしょうか。最近嬉しかったことは、森林と水に関する取組みについてヒアリングを行うため、スイス(ベルン)、ドイツ(フライブルグ)、フランス(グルノーブル)を訪れる機会を得たことです。日本とは違い、平坦な丘陵地の欧州では、「森が水を育む」という概念は主流ではなく、森はむしろ水を消費する、という考え方があることを知りました。
 また、ドイツには入会地のように地元住民が共同で管理する森が残っていること、アルプス地帯では雪崩等の災害を防ぐための森林の伐採方法等のノウハウを国をまたいで共有していること、水文学の専門家が作成した水質保全マップを森林管理者が活用していること等を知りました。森を森として守り、利用し、景観管理も徹底している欧州のあり方は日本と異なっており、新鮮でした。

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 ドイツ(フライブルグ)にて、バーデン=ヴェルテンブルグ州の森林局の方々と

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 「黒い森(シュバルツバルト)」に接したフライブルグの風景

 その一方で難しいと感じているのは、とにかく就業時間が長いことでしょうか。効率化の難しい専門的な仕事をいかに効率的に行い、利益を生み出し、かつ良い仕事を行うかが、課題だと思っています。


・3年目・・・・日々奮闘です 
 3年目の2011年。今年環境コンサルタントとして国内で大いに貢献できるのが「震災復興」と「新エネルギー」分野だと思っています。6月には東日本大震災で壊滅的な津波被害を受けた仙台平野の現場を踏査して、海岸林や背後地の被災状況を自分の目で見てきました。現在は復興に向けての基礎資料となる海底を含めた地形図上に植生や法規制を重ねた資料を作成成しています。私はまだ直接関わっていませんが、新エネルギーのポテンシャルマップ作成に関する業務を行っている先輩もいます。次の時代のための動きに加わることができる、というのは重要なモチベーションだと思っています。
 
 私の好きな詩人の茨城のり子さんの詩の中に「あらゆる仕事 すべてのいい仕事の核には 震える弱いアンテナが隠されている きっと」というフレーズがあります。この仕事に就き、先輩方を知り、その意味が分かったような気がしています。いつまでも感受性を鋭く保ち、日々奮闘していければと思っています。そして、現場に学び、常に人と自然との関わり方を問いかけながら、社会に貢献できる人材になることができればと思っています。



・プロフィール 岩田悠希(いわたゆうき) 
 1982年生まれ。愛知県名古屋市出身。アイルランド、ダブリン大学トリニティ・カレッジで地理学の学位取得後、京都大学地球環境学舎の景観生態保全論研究室に入学。
 修士論文テーマは「里山里海の人びとの認識」。一般の人々が考える里山里海はどういった特徴のランドスケープを持ち、どういった価値があるかを分析した(”Public Perception of the cultural value of Satoyama Landscape types in Japan”, Landscape Ecological Engineering (2011) Volume7, Number2, July :173-184)。
 京都大学地球環境学舎在学中に、パナマ共和国・国立公園における生物多様性保全プロジェクト(JICA)インターンシップ、「里山里海SGA」インターンシップ等経験。自然環境の保全・創造をする仕事を目指し、2008年アジア航測会社入社3年目(環境部 環境デザイン課に所属)。

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2011年09月07日

10年あまりの景観生態学との関わりを振り返って

 景観生態学は緑地計画と密接な関係を持ちます。私がカリフォルニアに留学した当時(1999年頃)、緑地計画を扱う分野でも景観生態学が知られるようになり、脚光を浴び始めていました。カリフォルニアの自然を見渡せば、都市や農地、草原、森林は面状に大きく広がり、河川に沿って樹林帯が形成されていました。そのような土地では、パッチ、コリドー、マトリックスという景観生態学に特有の概念で、緑地を計画することは画期的に思えました。
 私は、修士号取得の後、京都大学に戻ったのですが、京都大学の研究室では、京都のまちの自然をパッチ、コリドー、マトリックスの構造で捉え、景観生態学的な視点で草本植物やコケ類の種の多様性を説明できないかという研究が行われました。大阪府立大学時代の森本幸裕先生の研究室の成果と合わせ、様々な種群を対象に研究が行われたのですが、種の多様性を説明するもっとも大きな要因は、緑地の「面積」でした。緑地の「配置」(京都のまちを囲む山地からの距離や、緑地間の距離など)は、種の多様性の説明要因とはならないケースもありました。
 これらの研究を振り返って考えると、アメリカでは効果的に思えたパッチ、コリドー、マトリックスという景観の大きな捉え方は、日本ではあてはまりが悪い部分があるように思います。日本は温暖で湿潤なため、森林が成立しやすいことから、草原と森林というアメリカ大陸ではよく見られるコントラストがほとんどの地域で存在しない上に、草原から森林への遷移の途中相が多く存在します。また、日本は急峻な地形の島国であるため、地形の変化や、海から陸への環境の変化に富み、いろいろな環境が細かな単位で混ざり合って存在します。日本の自然景観は、連続的な変化を含んだ景観のモザイク構造が特徴であり、少なくとも京都ではパッチ、コリドー、マトリックスという概念だけでは本質を捉えられないようです。
 日本の自然をよりよく理解し、よりよい自然との付き合いが可能な緑地を計画するためには、どのような観点が必要なのでしょうか?研究室の近年の研究では、緑地の面積や配置だけでなく、「撹乱」の頻度や規模、「土地の履歴」などが、地域の自然を理解するための重要な概念であることが明らかとなってきています。これは、景観生態学が、単なる空間生態学ではなく、時間生態学としても発展すべきことを示唆しているように思います。

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海と陸、草原と草原のコントラスト(California, U.S.A.)

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2001年3月Flicker Ridge(California, U.S.A.)にて



プロフィール
今西純一(いまにし じゅんいち)
1975年 京都府京都市生まれ、97年京都大学農学部林学科卒業、99年同大学院農学研究科森林科学専攻修士課程修了、99〜2001年カリフォルニア大学バークレー校環境デザイン学部ランドスケープ学科修士課程修了、04年京都大学大学院農学研究科森林科学専攻博士課程修了・博士(農学)、04年京都大学大学院地球環境学堂景観生態保全論分野助手(農学研究科環境デザイン学分野助手両任)、07年京都大学大学院地球環境学堂景観生態保全論分野助教(農学研究科環境デザイン学分野助教両任)
http://www.ne.jp/asahi/homepage/junichi/
日本景観生態学会専門幹事(リモートセンシング).
専門:造園学、緑化工学、植生リモートセンシング.

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