2011年04月01日

流域治水の実践と関係性の回復

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 福岡の樋井川の流域治水に取り組んでいます。ゲリラ豪雨による都市型水害への対策です。これはまた、人と人、人と自然の関係性の回復を目指すものでもあります。

 2009年7月24日、市内を流れる樋井川が氾濫しました。行政の対策は河道の浚渫(福岡県)と下水道の強化(福岡市)です。前者は河川の自然機能を損なう恐れがあり、後者は時間60o以上の降雨には対応できません。そこでいかに流域で流出抑制をするかが不可欠の課題です。

 2009年10月から樋井川流域治水市民会議を実施しています。これは市民共働で総合的に治水を目指すものです。2011年1月末までに15回の会議が開催されました。当初は被災住民から行政に厳しい言葉が浴びせられました。しかし被災地区を一緒に見て回り、被害の状況と問題を共有する中で、地先だけでは都市型水害に対応できないことが実感されてきたようです。会議では行政の対策の報告が続けられ、市民の意見を反映していること、河川形状をできるだけ自然なまま浚渫を行っていることなどが説明されています。

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写真−1 市民会議の様子

 2010年4月から、130個ほどの雨水貯留タンクが無料で希望者宅に設置されました。それ自体の治水効果は大きくありませんが、流出抑制の意識が広がり、広範な抑制に繋がることが期待されます。このほかため池や学校施設などすべての土地利用を検討し、関係者を巻き込み参加してもらいつつあります。こうして少なくとも降雨量100o/hrの4割の抑制を目指しています。

 市民会議は全員参加の流出抑制の実践の場ですが、そこには大事な課題が二重写しになっています――関係性の切断を基本とする、近代的な制度と態度の刷新です。河川の治水・利水・環境の機能を切り離さないこと、上流と下流、行政と市民、行政と行政、自然と人間、人と人とのかかわりを人々の自尊・自覚・自制の精神で回復していくことです。こうした関係性の回復を、流出抑制をとおして行います。このユニークな取り組みの成り行きに、ご注目ください。

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写真−2 フィールドワークショップ

追記:上の記事を書いた約3週間後の3月11日,東日本を大震災が襲いました.こころが痛みます.休息と癒しがいま必要な方々にそのときが与えられることを,切にお祈りしています.いまを耐え懸命にまえに進みつつある多くの方々に,こころより敬意を表します.私自身を含め,自然と社会に学ぶものの生き方と学問の立場が,いっそう問われる出来事と諒解します.「何が真理であるかを問うことは大事であるが,何が真に人を動かすかとの問いこそが究極の問題ではなかろうか.そしてそれへの答えは,〈愛〉のほかにはない.愛こそは真理であり,真理は愛の中にある(山田隆)」



プロフィール
山下三平(やましたさんぺい)
1962年、山口県生まれ。九州産業大学工学部都市基盤デザイン工学科教授
専門は景観・デザイン/計画、河川工学。河川の風景の評価と計画、都市景観の色彩計画、景観まちづくり、農山村の文化的景観保全に関する研究を行うとともに、景観行政団体の景観計画策定と運用等の実務に従事。なお、樋井川流域治水市民会議の詳細は、以下のサイトを参照されたい:http://sites.google.com/site/hihikawashiminkaigi/

posted by 管理者 at 14:24| Comment(0) | 景観生態学の現在