2011年03月01日

生物多様性をまもる景観生態学

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 2010年は,「生物多様性」にとって生物多様性条約が制定された1992年と同じくらいに記念すべき年となったように思います。名古屋で開催されたCBD COP10で,名古屋議定書(Nagoya Protocol)が採択され,2020年までの保全目標である愛知ターゲット(Aichi Target)の合意をみました。日本景観生態学会でも,森本会長や鎌田幹事長らが中心となってURBIO2010を成功に導き,生物多様性の保全に景観生態学が果たす重要性についての認識が深まったものと思われます。
 すでに,1990年代初めの国際景観生態学会日本支部時代の会報にも,生物多様性の保全には景観スケールのアプローチが不可欠で,景観生態学が大きな威力を発揮する分野であることが指摘されています。海外ではすでにこの分野に関する成果が発表され始めていましたが,その後,日本でも各地で景観構造と生物の分布に関する研究が蓄積されるにつれて,このことが改めて強く認識されるようになってきています。
 景観生態学の魅力は,生態系のモザイクが織りなす異質性(heterogeneity)に富んだ景観を対象として,時・空間スケールを自在に変えながら,そこで生起している現象を対象に研究を進めることにあります。ここで,私たちが取り組んでいる,千葉県北総地域の「谷津景観」を対象とした研究を紹介しながら,その魅力にせまってみたいと思います。
 千葉県の北総地域には谷津とよばれる特有の地形がみられ,台地を切り刻むように細長い谷が樹枝状に発達し,湧水から始まる小川と湿田,そして周囲の森林からなるモザイク構造は「谷津景観」としてこの地域の里山景観を特徴づけるものとなっています。この景観配置構造(landscape configuration)は,多様な野生動植物の生息地として優れたものとなっており,さらに,伝統的な農業がいまだ営まれているところもあり,「文化的景観」としても高い価値をもっています。

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写真1.北総地域の谷津景観(佐倉市米戸)

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写真2.同(佐倉市上別所)

 景観生態学は,景観の「構造(structure)」,「機能(function)」と「変化(change)」を研究の対象とします。谷津景観は,独特の景観の「構造」,とくに野生生物の生息域として適した景観配置構造をもち,北総地域では,残された多様な動植物の貴重な生活域という「機能」を担っています。しかしながら,1970年代以降,耕作放棄が進み,湿田から湿地への景観の「変化」が進行しており,適切な管理方法が求められています。私たちの研究室では,この谷津景観を対象として,生物多様性を保全する研究を続けています。管理様式と動植物の生育状況を継続して調査することで,谷津景観における,21世紀という「時代」と「地域」の特性にふさわしい市民を巻き込んだ新しい管理手法を明らかにしたいと考えています。
 2011年は日本景観生態学会の第21回大会が千葉(東京情報大学)で開催されます。

 http://www.edu.tuis.ac.jp/~jale21/index.html

 「景観生態学が生物多様性を守る」というテーマで公開シンポジウムを企画し,エクスカーションでは北総地域の谷津景観を巡検する予定です。皆さんの参加をお待ちしています。

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写真3.放棄が進んでいた頃の畔田谷津(佐倉市下志津・畔田)(2005年1月18日 (c) 京葉測量)

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写真4.自然再生が進む畔田谷津(2010年4月25日)



プロフィール
原慶太郎(はら けいたろう)
1955年山形県米沢市(草木塔のふるさとです)生まれ.理学博士(東北大学).
東京情報大学総合情報学部教授,総合情報学部長,総合情報研究所長.
日本景観生態学会副会長,千葉県環境審議会自然環境部会長,(財)日本自然保護協会理事.

posted by 管理者 at 11:26| Comment(0) | 景観生態学の現在