2011年02月01日

ランドスケープレベルと生態系サービス

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 生物多様性条約の第10回締約国会議(COP10)に至る議論を通じて,生物多様性や生態系に関する研究にも新しい方向性が出てきたのではないかと思っています。その一つが,生態系サービスの定量的評価だと思っています。TEEB(生態系サービスと生物多様性に関する経済学)報告書に見るように,より多くのステークホルダーに生物多様性問題への行動を促すためには生態系サービスの経済評価が重要だ,という方向性が明確になってきたようです。GDPのように,国家レベルで生態系サービスを経済指標の中に組み込む試みも始まります。経済評価の前提となるのが,生態系サービスの定量化ですが,どうやってそれを行うかが大きな課題です。生態系サービスの中でも,生物多様性がとくに重要な役割を果たすものについては,定量化のむずかしいものが多く,手法の開発も必要です。

 こうした動きの中で,生態系サービスの定量化には,ランドスケープレベルでの情報が重要であることが明確になってきています。送粉や生物制御などは,生物多様性がもたらす生態系サービスの最たるものですが,こうしたサービスには生産に関わる生態系と自然に近い生態系のモザイク構造がクリティカルな機能をもっています。すでに先駆的な研究がいくつか出てきていますが,今後も農業生態系に対して周辺の自然生態系がもたらすサービス,モノカルチャーのリスク評価など重要なテーマが残されています。生態系サービスの定量化は,おそらくさまざまな空間スケールでの生態系管理に欠かせないものとなるので,空間情報として可視化する必要性も大きいと思います。そういう意味では,この分野で景観生態学あるいはその手法が果たす役割は大きいのではないかと思っています。そんなことを考えながら,学生と一緒にさまざまな調査を始めたところです。その詳細はいずれ,学生たちが学会で紹介してくれるでしょう。

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写真1.拡大造林時代に作られた保残帯(白神山地)

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写真2.東北地方に残るイグネ(奥州市)



プロフィール
中静 透
1956年、新潟県生まれ。東北大学生命科学研究科教授。専門は森林生態学、生物多様性科学で、森林の動態と更新、林冠生物学、森林の持続的管理と生物多様性などを研究。主な著書に、「モンスーンアジアの生物多様性(岩波書店、共著)」、“Diversity and Interaction in a Temperate Forest Community. Ogawa Forest Reserve of Japan,” Springer-Verlag(共編、共著)、「森のスケッチ(東海大学出版会)」など。


posted by 管理者 at 11:33| Comment(0) | 景観生態学の現在