2010年01月05日

これからのハビタット・モデルづくり

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 私はこれまで(決して数学には強くはないのだが)統計学的手法をもちいて,大阪の都市公園のシジュウカラや京都の社寺林のアオバズクといった,主に都市域の鳥類のハビタット・モデル(生息適地モデル)をつくる研究をやってきた.そして現在は,中国・北京市街地のカササギ,愛知県の里山のサシバ,琵琶湖の水鳥などを対象に研究している.

 私の研究テーマには,小学生時代の東京の住宅地や愛知県岡崎市郊外の母の実家周辺での昆虫採集,中学1年生の秋に学校に隣接する都市公園で始めたバード・ウォッチング,中学生〜大学生の頃の茨城県土浦市の里山・宍塚大池での自然観察会や猛禽類サシバの調査への参加,日本野鳥の会茨城支部の各種野鳥調査(猛禽類,フクロウ類,カワセミ等の分布調査,カモ類のカウント,霞ヶ浦のヨシ原の繁殖鳥類調査など)への参加などの経験が影響している.実際に観察して生態をよく知った生物でないと,ハビタット・モデルづくりなどできない.ハビタット・モデルの研究は,大学院に進んでからである.

 ハビタット・モデルづくりは,カッコつけて言うと,“ナチュラリスト的勘を数式化する”ことだと考えている.まあ私の場合は,せいぜい“バード・ウォッチャーの常識を数字で示す”といった程度かもしれないが,日頃,フィールドで感覚的に重要と感じている環境セットの重要性を統計的に裏付けするだけでなく,意外な要因に気づかされることもある.数式化・定量化することで,土地利用変化に伴う将来予測や過去の分布状況の推定もでき,具体的な保全策の提言につながる.シジュウカラやアオバズクは都市緑地の,サシバは里山の谷津田景観の,それぞれよい指標種となると考え,様々な機会を捉えてアピール中である.

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 シジュウカラの研究開始時から気になっていたのは,鳥類の移動や視野にとって障壁となる高層建築物の影響をどう評価するかという課題である.東京大会時の公開シンポジウムの講演でも触れたが,これからは高さ方向の情報も考慮した“三次元の景観生態学”が必要ではないだろうか.幸い2007年度から2年間,科研費をいただいて,高層ビルの建設ラッシュの中国・北京市街地のカササギを研究する機会を得た.カササギはカラス科の中型の鳥で,姿が目立つので行動を追いかけやすい上,樹上にボール状の大きな巣を作るため,巣の位置をほぼ見落としなく地図に落としやすい.北京市街地のビルの高さデータはALOS衛星のステレオ画像から作成したものを使っているが,国内の市街地であれば,航空機レーザー・スキャナを使って計測された地表高データの方が精度も高くて良いはずだ.三次元データを使ったハビタット分析のアイデアは新潟大会で紹介したが,まだ大量データ処理のための半自動化プログラムの開発という課題が残っている.

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 相手が生きものなので演繹的には分布は決まらないが,今後,ハビタット・モデルに求められるのは,ピンポイントで分布予測をすることであると思う.市街地の街路樹を利用する鳥類や里山の谷津田環境を利用するサシバの保全では,具体的に緑化すべき場所や保全すべき水田を特定することが重要だ.現在,私が研究フィールドとして利用させてもらっている愛知県豊田市自然観察の森では,「サシバのすめる森づくり」をキャッチフレーズに,餌場となる休耕田の草刈りや水張り作業が行われている.サシバのハビタット・モデルは「どれだけの水田面積を復元すれば一度消えてしまったサシバを再び呼び戻せる可能性があるのか」という問いに答えられるものと考えている.ハビタット・モデルづくりのためのサシバの生息調査には,地元NPOにもご協力いただいて,山里の中で楽しく調査をさせてもらっている.

 このところ講義準備やURBIO2010をはじめとする学会関連の仕事に追われ,新しい高度な統計テクニックの勉強になかなか追いついていけていないが,緑化プランの評価や戦略アセスにも使えるようなハビタット・モデルづくりをしていきたいと考えている.



・プロフィール
橋本 啓史(はしもと ひろし)
1977年愛知県岡崎市生まれ,東京,茨城育ち.博士(農学)(京都大学)
私立茗溪学園高等学校,筑波大学第二学群生物資源学類卒業.大阪府立大学大学院農学生命科学研究科博士前期課程,京都大学大学院農学研究科博士後期課程修了.学振特別研究員(DC2/PD)を経て,2006年から名城大学農学部生物環境科学科ランドスケープ・デザイン学研究室・講師.2007年から同・助教.

posted by 管理者 at 14:45| Comment(0) | 景観生態学の現在