2009年11月17日

重要文化的「景観」生態学

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 岐阜県恵那市の北部、中野方町に石積みの美しい坂折棚田がある。田植え、稲刈りの実習に学生共々通うようになって4年になる。昔ながらの棚田に見えるが、機械で耕作し、農薬を使い、中干しをするし、冬には落水する。畑になっているところもあれば、耕作放棄されているところも少なくない。カエルは棲みづらくなり、石積みは管理されなくなれば、次第に樹木が大きくなり崩れてしまう。棚田の景観も、棚田の生き物も人の営みの中で受け継がれてきたものである。

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 当ゼミの相田准教授の努力のかいがあって、3枚の休耕田を借りることができ、棚田ビオトープなるものを作ることとなった。1枚は無農薬で稲を作り、もう1枚はさらに稲の脇に生き物のために開放水面を作る。残りの1枚は水張り休耕田とする。つまり、1枚は人の田んぼ、1枚は人と生き物が共存する田んぼ、1枚は生き物の田んぼ(休耕)というわけである。相田准教授が言うには、田んぼの借用のため、ビオトープとは何かを苦労して説明したところ、地元のお百姓さんいわく、「なんだ、昔のように米を作るのか。」、ごもっともである。学者顔して偉そうなことを言うのが気恥ずかしくなる。

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 棚田ビオトープでは、ヤマアカガエルの山ちゃんをフラッグシップ種に祭り上げPRした。整備前の調査で1匹確認してはいたが、翌春、卵塊を発見したときは正直ほっとした。学校ビオトープコンクールで銀賞を受賞した。山ちゃんのおかげであるが、小中学校が中心のコンクールで賞をとるのは、なんとも大人げない。

 昨年からは、この棚田景観を景観文化財(重要文化的景観)にすることを目指して、恵那市教育委員会が調査をすることとなり、そのお手伝いをすることとなった。唐津市の「蕨野の棚田」など、すでにいくつかの棚田が景観文化財に選定されている。調査は、少なくとも景観と文化財と自然環境の3つの観点から行う必要がある。ところが、これまでの調査事例を見てみると、自然環境にはあまり力点が置かれていない。坂折棚田の調査では、植物、哺乳類、鳥類、両生爬虫類、魚類、水生昆虫について、それぞれ専門家による調査を実施している。自然環境分野の調査委員がほかに比べて多くなり、少々ひんしゅくをかっているがいたしかたない。棚田の景観が、人によってどのようにして作られ、維持され、どのような生き物が住みつき、人がその生き物を利用してきたか、あるいは戦ってきたか。これは景観生態学に関わる者にとって実に興味深いテーマである。

 この小文の表題を“重要文化的「景観」生態学”としたのは、そういう訳である。「景観」はクロスワードである。重要文化的景観と景観生態学がどうクロスするかを説明しようとすれば、それは景観生態学そのものを語ることになってしまう。



・プロフィール
藤原 宣夫(ふじわら のぶお)
1959年秋田県生まれ 学術博士(千葉大学)
国土技術政策総合研究所緑化生態研究室長、愛知県公園監を経て、岐阜県立国際園芸アカデミー教授
恵那市文化的景観調査研究委員会委員


posted by 管理者 at 13:43| Comment(0) | 景観生態学の現在