2009年06月23日

景観生態学の「知」の生産と流通

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 土地利用上の対立や生態的基盤の劣化が急速に顕在化している今,その問題解決に有効な土地利用や地域計画の手法,地域生態系の管理技術を確立し,それが活かされていくしくみを構築しなければなりません。景観生態学は,国土全体といった広域スケールから個々の地域の現場といった詳細スケールまで,異なった空間スケールを行き来しながら,生態系機能を発揮させ続けていくために必要な論理的基盤,「科学知」を提供する学問です。その「知」は,どのように流通し,誰にどのような形で利用されるのでしょうか。

 一つ目は,論文をとおして研究者コミュニティに流通します。そして,「科学知」は,他でも適用可能な理論や手法として研究者に利用されることになります。「学」である以上,この流通形態は必要不可欠なものです。でも,研究者だけがその「知」を使っていても,現場である地域の問題解決にはつながらないでしょう。

 国土・地域の管理方針を施策として示していく行政への「科学知」の供給が,二つ目の流通経路となります。実際,「国土形成計画」や「第三次生物多様性国家戦略」では,エコロジカル・ネットワークの形成や,生物多様性ホットスポットマップの作成をとおして,国土全体の生態系保全・修復をめざすことがうたわれています。これは,景観生態学の「知」が,国の審議会や委員会をとおして,行政に供給された結果です。国の方針は,地方自治体の方針へと転換され,「科学知」は薄まりながら,官によってオーソライズされた「知」がトップダウン的に流れていきます。

 国や自治体が,国土の土地利用のあり方について将来ビジョンを示すことは,とても重要なことです。一方で,それがすぐさま地域の課題解決につながることがないのも周知のことでしょう。日本の国土の大半は森林や農地や宅地からなる私有地のモザイクで構成され,その利用形態を決めるのは個々の地域の農林業従事者や住民です。トップダウンでもたらされる方針に対応するため,地域では,その生活の中で培われてきた知恵,すなわち「生活知」を用いて具体的解決策を探し,地域の意思決定システムにしたがって合意を形成します。このとき,「科学知」はどこかへ消え去っていることがほとんどです。

 ここで三つ目の「科学知」の供給のあり方,地域の意思決定の中での利用を可能にする,ボトムアップ型の「科学知」の流通手法を考える必要が出てきます。そんなことを考えながら,僕は,森づくりのあり方を考えるためのワークショップに参加するため,上勝町まで車を走らせます。大学での仕事を終えてからの1時間の道のりはしんどいのですが,不思議なもので,帰りはとても元気になっています。地域の方々が森や地元に対して持っている熱い想いを,エネルギーとして充電して帰れるからです。

 このような経験を基に,今,僕たちは,地域社会のステークホルダーの合意と意思決定による環境問題の主体的な解決に役立つ知識生産のあり方を考えるためのプロジェクト,「地域主導型科学者コミュニティの創生」を進めています。

 意思決定による環境問題の主体的な解決に役立つ知識生産のあり方を考えるためのプロジェクト,「地域主導型科学者コミュニティの創生」を進めています。
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上勝町「千年の森ふれあい館」での,森づくりワークショップ。


・プロフィール
鎌田磨人(かまだ まひと)
1961年徳島県生まれ 学術博士
徳島県立博物館学芸員、徳島大学工学部助教授を経て、徳島大学大学院教授
日本景観生態学会幹事長

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ランドスケープ・エコロジーの現在

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イントロダクション

景観生態学会(JALE)のブログ、始まります。

景観生態学(Landscape Ecology)は、簡単にいうと、人間を含
む生物と空間の
特性と関係を解明し、そこから土地利用の施策や地域計画に展開してい
く学問です。
そこには、生態系や景観の構造の変化、人間活動のありかたなど自然科
学と社会科学を
含めた議論の展開が必要になってきます。


このブログ「ランドスケープ・エコロジーの現在」では、
景観生態学会を構成するメンバーが、それぞれの研究や
プロジェクトの紹介を行っていきます。

「なるほど、そうか、こんな人たちが景観生態学に関わっているんだ、
こんなおもしろい研究があったんだな」

というような情報発信・交換の場になればと考えています。

これから、ゆっくり着実につながっていくといいなと思います。

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・プロフィール
伊東啓太郎(いとう けいたろう)
国立大学法人九州工業大学大学院工学研究院・准教授
1966年長崎市生まれ。農学博士。長崎県立長崎西高、九州大学農学部卒、同大学院農学研究科博士課程修了。2001年、英国ニューカッスル大学ランドスケープ学科客員研究員。専門は、森林生態学・環境デザイン学。現在、ノルウェーなどの北欧地域において、生態学・心理学の考えに基づいた環境デザインに関する国際共同研究を行っている。2006年グッドデザイン賞、2007年キッズデザイン賞金賞受賞。

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