2011(平成23)年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震とそれに伴う津波は、東北地方太平洋沿岸の自然環境に大きな影響を及ぼしました。アジア航測(株)では、環境省生物多様性センターからの請負により、震災の翌年から津波浸水域(青森県〜千葉県)とその周辺において、津波等が自然環境に与えた影響や変化状況のモニタリングを実施してきました。今回のポスターは、地震発生から概ね3年目にあたる平成26年時点の植生や海岸域、藻場・アマモ場の分布等についてのモニタリング調査結果をとりまとめたものです。以下、調査結果の概要です。

図1 学会ポスター
(1) 植生調査:震災後3年目の植生変化を把握するため、画像解析と現地調査にもとづき、植生図および植生改変図を更新しました。震災前から平成26年度までの変化をみると、農地復旧による耕作地の増加や復興・復旧工事等による造成地の増加のほか、「自然植生が残存」が減少する一方で、部分的に自然植生が回復しつつあることも明らかになりました。
(2) 海岸調査:青森県〜千葉県までの太平洋沿岸の砂浜・泥浜で、海岸汀線、海岸後背地の土地被覆状況を最新の画像で調査しました。この結果、平成24年に比べて一部の海岸では汀線の回復が遅れたままでしたが、一旦後退した汀線の多くが回復傾向にありました。
(3) 特定植物群落調査:過年度調査結果を踏まえて津波浸水域の26件について現地調査を実施した結果、15件で津波等による影響が確認されました。その他、塩沼地植生等、3件は砂浜回復に伴う自律的な再生が進んでいることを確認しました。
(4) 重点地区調査:過年度調査をもとに6地区を選定し、ベルトトランセクト調査、動植物相調査等を実施しました。動植物相調査では、それぞれの立地に応じた希少種が確認されましたが、場所によっては今後の生態系への人為的な影響が懸念されました。
(5) 藻場・アマモ場分布調査:最新の空中写真をもとに画像解析、判読、ヒアリング等により分布素図を作成しました。第5回自然環境保全基礎調査(平成9〜13年度)分布図と比較すると、コンブやワカメ等の岩礁性藻場は、どの市町村も概ね8〜9割程度残存しているのに対し、非岩礁性のアマモ場は残存率が2〜5割程度と低くなっている市町村がありました。
以上の調査成果は、環境省の以下のWebサイトで公開、情報発信を行っております。
○ しおかぜ自然環境ログ http://www.shiokaze.biodic.go.jp/.
今年度(平成27年度)は、集中復興期間の最終年度としてこれまでの調査成果をとりまとめて、東日本大震災やその後の復興事業によって自然環境がどのように改変され、消失してきたか、あるいは震災後4年間の回復状況の評価などを行う予定です。

図2 しおかぜ自然環境ログ
染矢貴(そめやたかし)
1965年生まれ。宮崎県宮崎市出身。広島大学総合科学部卒業後、アジア航測株式会社に入社。博士(学術)。現在、同社環境部(新百合技術センター)で植生調査や自然環境の保全・再生に関わる調査等に従事。趣味・興味・関心のあることは、散歩(路上観察)と音楽鑑賞(ギター演奏など)。